(そうよ、本当に病院が殺すなんてことはない。噂はやっぱり噂でしかなかった!)
そう胸を撫で下ろしつつ、一方で新たな疑問が湧いた。
(じゃあ、臓器を取られるっていうのは?)伸枝は続けた。
「私はどうしても納得がいかなかった。死因は何ですか?と聞いたら、悪性症候群を発症して、高熱と痙攣を繰り返した、と。その悪性症候群って何ですか? なぜなったんですか?って聞いても、それはわからない、と言うんですよ。向こうから、解剖して詳しく調べますかと聞かれたので、お願いしました」
「じゃあ、解剖で、詳しいことがわかったんですね」
「いえ。結局解剖しても原因はわかりませんでした。……そういうこともある、とあらかじめ言われていましたから、できるだけのことはしてもらったと思い、感謝したんです。その時までは。でも……」
伸枝は立ち上がり、遺影に向かった。
「ここでね、二人っきりのお通夜をしました。充の父親は早くに亡くなっているんです。充はすでに棺の中でした。でも私、棺の蓋を開けて、充を抱きしめたの。こうやって……」
伸枝は両腕を胸の前で広げると、横たわる充の体をすくい上げ、抱きしめるようにして腕を交差した。伸枝の面差しは、十字架から下ろされたキリストを抱く聖母マリアのごとく神聖で、慈愛にあふれている。ところがその顔が、一瞬で般若に変わった。
次回更新は1月21日(水)、14時の予定です。
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