今から丁度三年前。老人がこのゴミ処理場を建てて五年目の夏だった。今日のようにじっとしていてもシャツ裏に汗が滲む蒸し暑い日。老人は、朝からゴミの分別に追われていた。腐敗が進んで生じる強烈な臭いと熱気に当たってか、夕刻になって目眩を覚えるようになっていたらしい。

分別によって出た最終の可燃ゴミをリヤカーに積み、二十メートル四方、深さ十五メートルほどに掘り抜いた穴に投棄しようとしたその瞬間だった。目の前が急に真っ暗になって、気を失った。老人の体はリヤカーを離れ、宙に浮き、そのまま穴底目掛けて落ちていった。穴には、ゴミが自分の体の何千倍も犇(ひし)めいている。底へ向かうほど、それらは腐って原型を留めてはいなかった。

奈落で湧き上がったアンモニアが気付けの役を担ったか、正気に戻り、気が付くと、老人の体は腐った生ゴミをはじめ、木や布の断片等、人の営みで排出されたありとあらゆるゴミの中に沈んでいたのだ。この処理場というのは、元々、大手S林業が廃材置き場として利用していたものに多少の手を加え、新たにゴミ処理場として作り替えたものだった。それが八年前のこと。

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