ただし、これら醜悪なる飲食物によって己の体がどれほどまでに崩れていくのか、予想だにしてはいなかった。

しばらくして、体内のほとんどの器官が拒絶反応を示し、皮膚は糜爛(びらん)して溶け始め、頭髪はもとより体中の毛という毛がすべて抜けてきた。大変な下痢をしたが止めようもない。身動き一つできなかった。

仕方なく、その場で排泄するも、人一人が出す量などは微々たるもの、周りの巨大な汚物の塊に比べれば、涙の一滴にも満たない。微動だにできぬ苦痛と、耐え難い悪臭、さらには飢餓へと続くこの生き地獄の中で自分の運命を呪い、精も根も使い果たした。

気力を損じてから六日目、それは汚物を喰らうようになって丁度十日目の晩だった、老人は、これまでにない深い眠りに落ちた……。

ここまでの内容に、ほぼ付いてこられず、呆気にとられていた有三の目を覚ますかのように、老人は急に声を大にした。

「夢か現か幻か分からぬまま、わしは、ゴミ塊の最奥から、こちらをじいっと凝視する何物かの視線を感じたのじゃよ。お主、そやつの正体は何だったと思う? まずもって、想像すら湧いてもこぬだろうな。その悍(おぞ)ましい正体に我が目を疑ったよ!」

「見当も付きません。ゴミ溜めの中に何かいたんですか?」有三は、不気味さで思わず小さく身を揺すっていた。

「それは、何と巨大な蛆虫だったんじゃ。大人ほどの体躯の化け物じゃった。しかも、その姿に相応しい、喉の奥から振り絞るような嗄(しゃが)れた声でわしに話し掛けてきよった。奇怪な体をして、その様相をさらに上回るような奇談を吐露し始めたのじゃよ」