関根教授はしばらく考え込んでいた。
居眠りの原因は夜遊びなどではなく、重大な事件に駆け付けたからだ。しかも、その裏には、深い家庭の事情があるらしい。出掛けるにあたって、その事情を知る友人も、心配してついてきてくれた。
結果、ふたりに落ち度はない……と思われた。
「おふたりの事情は分かりました。ですが、一応そのような理由だからといって、居眠りをしていた事実に変わりはありません。その間、講義は聞いていなかったことでしょう。その穴埋めはしてもらわなければなりません」
関根教授はノートパソコンを開いて画面をみつめた。今日の講義の内容が記録してあるのだろう。
沈黙の時間が流れる。
「おふたりに課題を出します」
さすがに無罪放免とまではいかなかったようだ。
「今日の講義は、生きた看護を実践するにはどうしたらよいかをお話ししました」
ふたりは神妙に聞いている。
「例えば、ひとりの患者の状況をどう把握して看護につなげていくか。わたしたちは、医師以上に患者に接している時間が長いのです。ひとりの患者の変化を見逃さず、常によりよい看護を目指す。それは看護師としての第一歩。基本の姿勢です」
関根教授の理想とする看護の姿勢は、まだ半人前の学生からしたら、平身低頭するばかりだ。あずみたちは、罰としての課題も仕方ないかという気持ちになっていた。
「そこで……例えば、あるひとつの疾病を例題に選んでもらって、その疾病についてどのような点に注意して看護をしたらいいか。そのポイントを述べなさい。これは少し上級編の課題ですが、自由に書いて結構です。レポート用紙五枚でいいでしょう」
スマホゲームに興じていた学生はレポート十枚だったと聞く。それに比べれば、まだましなほうだ。
「その疾病については、今日の講義でお話しした例題の中から選んでください。なるべく一般的な病気のほうが書きやすいでしょう」
今日の講義で出された例題はなんであったか。あずみたちは、友人のノートを借りてまずはそこから復習しなければならない。
「それでは期限は三日後。おふたりとも、わたくしのところまでレポート五枚提出しなさい」