「私が、探して届けてあげる。もう暗くなるから、まずはあなたを家まで送っていくわ。必ず見つけるから」

「……見つかる?」

「うん。ちゃんと見つけてあげる。だから、安心して」

リリーは、女の子をフルールの背に乗せると、フルールをひいて歩き出します。

「わあ、高い……!」

女の子は、大人の馬に乗るのは初めてのようでした。しかし、怖がることもなく、いつもの何倍も高い場所から見える景色に目を見開いています。

「ちゃんと手綱を握っててね。フルールはやさしいお馬さんだから、心配しないで」

「うん!」

「そういえば、あなたのお名前は?」

「メル」

「かわいいお名前ね。おうちは、どの辺り?」

「あっち」

女の子が指さしたのは、村のはずれのほうでした。話を聞くと、最近この辺りに引っ越してきたばかりだといいます。

「じゃあ、あなたのおうちにも、春を呼ばなくちゃね」

「春?」

「ええ、そうよ」

庭先に着くと、リリーは女の子をフルールから降ろしてやりました。

「手袋が見つかったら、届けに来るからね。おうちの人と待っていて」

「うん。おねえさん、ありがとう」

女の子が家の中に入るのを見届けてから、リリーはまた、フルールにまたがりました。

「フルール、力を貸してくれる?」

ふんっふんっ、とフルールが鼻を鳴らします。

「そうよね。聞くまでもないわよね」

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