第三章 焦燥

ラフィールは立ち止まって振り返った。

外から戻って城門を入ろうとした時、入れ替わりに中から空の荷車を押して出てくる領民や、脇に天秤を抱え、後ろには袋を背負った使用人たちを従えた商人の一行とすれ違ったが、その人々に紛れるように馬を曳(ひ)いて出てきた男の姿が妙にバーラスに似ている気がした。

バーラスは同じヴァネッサの者だが、今はオージェにいるファラーのもとで暮らしている。ラフィールのように最初からファラーの供をするよう命じられた者ではなく、誰の許しも得ず、勝手にあとを追いかけてきて、そのままオージェに居着いた者だ。

ファラーはあまり事情を問いたださなかったので、敢えて自分がそれを聞くこともなかったが、村の連中にちょっと顔向けのできないことをしたらしいと、以前バルタザールから聞かされたことがある。

そんなバーラスがこんな所にいるはずもなかったが、きっちり切り揃えた髪とその後ろ姿は、どう見てもバーラスのように思えて仕方がなかった。

「バーラス!」

ラフィールは思い切ってその男に向かって呼びかけてみた。すると、呼びかけられた男はぎくっと背中を固めて立ち止まったものの、そのまま振り返りもしない。

「バーラス?」

不審に感じてもう一度その背中に呼びかけてみる。男はゆっくりと顔をこちらに向けてきた。

やっぱりバーラスじゃないか! 自分がいるのをわかっていて避けて通ろうとしたのだろうか。

オージェにいる間も、ことさら自分に不機嫌な態度で接していた彼に、ラフィールはあまり好印象を持っていない。自分の何が癪に触るのか、理由もないまま故意にきつく当たられたことが何度もある。

だが、オージェでは仮にも一つ屋根の下で暮らした自分たちが、申し合わせもなくこんな場所でばったり出会(でくわ)したというのに、またそんな態度か! ラフィールには彼の心根がわからない。