「ジェロームよ、心得違いをしてはならぬ。お前は知らぬことだが、お前の祖父の代には我らの一族はまだ血を流して戦っておった。それを統一し、無駄な流血を終わらせたのが我が一族の功績だ。

したがってこの国は王一人のものにあらず、大諸侯によって支えられたこの体制の上に築かれておるのじゃ。玉座には一族の中でそこに一番ふさわしい者が座ればよいが、肝要(かんよう)なのはこの体制の維持じゃ。

両翼を担っている我ら一族の役割があってこその玉座だということを、お前もよく見極めておくのだな。アンリがそれを見誤らなければ、辛抱強く待ったあの弟が次にあそこに座るのは自然な成り行きではないか。どうじゃな ? 

確かに、異国から迎えた儂の母の影響で、儂らは多少は雅な暮らしを覚えたが、しかし所詮はアンリも儂も蛮族の王の末裔じゃ」

カザルスは自嘲するでもなく、おおらかに笑い飛ばした。意を決して持ち出した話を取り合うどころか、逆に諭(さと)され、茶化され、ジェロームは唇を噛んだ。

バルタザールの反応はと目をやれば、聞いてもいなかったように地図を広げ、台帳を繰っている。

この者は父の今の話などとっくに心得ているのかと思うと、無性に腹が立った。

子どもの頃は、父や母や姉にぶつけられない悩みを相談すると、こっそり味方してくれた。だがこうして見ると、やはり彼は父の忠実な番犬なのかと、ふとイヨロンドの言葉が心をかすめる。

ジェロームは結局それ以上返す言葉もなく、「お邪魔致しました!」と言い残して不機嫌なままその場を立ち去った。

【前回の記事を読む】イヨロンドについて世間は悪者とばかり決めつけるが、本当にそうなのか……ジェロームはそんな思いを抱くようになってしまい…

次回更新は12月10日(火)、18時の予定です。

 

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