第二章 変動
訝る家来に、イヨロンドは問う。
「あの倅が次に実家に戻るのはいつ頃じゃろうか?」
「はあ。年明けにはどなたも一度はお帰りになるのではないでしょうか」
「年明けか……」
イヨロンドはジェロームが消えた方に目をやると、微かに口元を緩ませた。
新年を迎えて、アンリのもとで一通りの行事が片付いてしまうと、ジェロームは例年どおりしばらく暇をもらってプレノワールへ戻った。従者としてアンリに仕えている以上、用事を申しつかって戻ることはあっても、休暇として生まれた城へ帰るのはこの時だけだ。
奉公に出た当初はまだ少年だったこともあり、この日が待ち遠しくてたまらなかったが、今となれば母や乳母を喜ばせるために帰るようなものだ。
アンリの顔を見ないで過ごせるのはありがたいが、数日も過ごせばまた戻ることを考えると馬鹿馬鹿しい。同じ年頃からアンリのもとに来た貴族の子弟らは、すでに奉公を辞めて国に帰っている。
もういい加減シャン・ド・リオンでの奉公が嫌になっているジェロームにとって“宿下がり”ということ自体が屈辱的なのだ。
ゴルティエが死んで状況が動き出す時期でもあり、そろそろ奉公も切り上げるわけにはいかないかと、思い切って父であるカザルスに相談するつもりでジェロームは帰ってきた。
父の居間に行くと、カザルスはバルタザールとともに、代官から上がった報告をもとに今年の作付けをどうするべきか地図を広げて検討しているところだった。
そんな大事な決め事には、本来なら自分が加わっていてもおかしくはないと思うのだが、ジェロームが入っていくとカザルスは、「あとにしよう」と打ち切って「何だ?」とにこやかな顔をこちらに向けた。
優先されたという思いよりも、疎外されたような気持ちが残った。