こ若い男も「あまりかけすぎるなよ」と、人に注意しておきながら自分は酢が見えなくなるほど大量の胡椒をかけていた。なぜかそれが大人っぽく見えてカッコよかった。
周りはお酒を飲んでいる大人ばかりだったが、彼は飲まない。「おじさんは飲まないの?」と聞くと「まず、俺のことはジンと呼んでくれ。まだそんなに歳は取ってない」「それから、お酒のことは気にするな」
やがて食べ終わり一息つくと、「ジュースでも飲むか?」の質問に、こちらもすかさず「うん!」と返事をする。
この店で飲むかと思いきや、「またちょっと歩くけど俺のなじみの店がある。そこでジュース飲もう」たかがジュース飲むのにわざわざ歩いて行くのかと思ったが、断る理由はなく、またしてもついていく。
やがて六本木に出ると雑居ビルに入り、扉を開けるとほぼ同時に、「あらジンさん、こんな時間に珍しいね!」と派手な服を着た女性に出迎えられた。「あれ、この子どうしたの?」
「子供だけど俺の友達。こいつにジュース飲ませてやってくれ」
僕は、まず働く人が、お客さんにタメ口なことに驚く。それから働く人がお客さんと一緒に座ってしまう。しかもなんと隣に。その時は子供過ぎてわからなかったが、いわゆる"クラブ"(踊るほうじゃなくて)に連れていかれたのである。
不思議なことだらけで僕の頭の中は混乱していた。時間が経つにつれ、「お酒のことは気にするな」と言って僕を安心させたジンさんは、だんだんと酔うにつれ態度が横柄になっていった。
ついてきたことを少し後悔し始めた頃、隣に座っていて僕を迷惑そうにしていた女性が、「この子、そろそろおうちに帰さないとまずいんじゃないの?」と真顔で言うと、「やべっ、そうだな!」と、ようやくお開きになった。