*
ゴルティエの訃報が届くや、コルドレイユには周辺の諸侯はもとより、遠方からも大勢の人々が弔問に訪れた。
ゴルティエ自身の剛胆で人好きのする人柄もさることながら、建国の生き証人であった彼の死は一つの時代の終わりを告げるものであり、厳かな葬儀の裏で、参列者らは早くも新しい動きに乗り遅れまいと腹の探り合いに余念がなかった。
家督を継いだエルンストはカザルスの娘婿だが、年齢が近いこともあって、以前からシャン・ド・リオンのアンリと密に親交を深めている。
はてさて今後コルドレイユはプレノワールとの結束を強めていくのか、それともシャン・ド・リオンへ傾くのか。集まった者たちの最大の関心はまさにそこだった。
そのような葬儀の場に現れた女がいた。アンブロワの領主シャルルの母であり、未亡人となっているイヨロンドだ。
強欲、無慈悲ということにかけてはこの国一番という悪評を得ていた彼女は、かつて夫の死に乗じて頭の鈍い長男ギヨームを抱き込み、アンブロワの統治を意のままに操ろうと企てたことがある。
ところがあと一歩というところで彼女が予想だにしなかった邪魔者が入った。それがギガロッシュの岩の果てから自分たちの村の救出を胸に秘めて現れたシルヴィア・ガブリエルだ。
カザルスに接近する手段としてまずアンブロワにやって来た彼は、イヨロンドと相続問題を巡って対立していた次男シャルルに知恵を貸し、巧くプレノワールのカザルスを担ぎ出した。
結局、この三人による電光石火の反撃によりイヨロンドは野望を挫かれ、今は養父の領地であったノエヴァに不本意な形で隠遁させられている。
恩ある養父への酷い仕打ちや、その後嫁いだアンブロワでの度を超えた強欲ぶりは有名で、前アンブロワ領主であった夫フィリップの死にも関与したのではないかと、常に身辺によからぬ噂が渦巻いていたような女だ。
彼女がカザルスによってノエヴァに封じ込められた時は、この国の諸侯をはじめ農民に至るまで、誰もが手を叩いて喜んだものだ。
すっかり鳴りを潜め、もう時の女ではなくなってしまったはずだが、そのイヨロンドが四年ぶりにひょっこり人前に姿を現した。
だが、挨拶してくる者は誰もなく、人々は敢えて気づかぬふりを装いながら、ひそひそと彼女が来ていることを伝え合う。
そんな周囲の冷たい視線にたじろぐこともなく、小者(こもの)に対してはふんと強気に取り澄ましているのだが、近在の殆どの諸侯が集まるこの場には当然ながら因縁深いカザルスも来ており、顔を合わすかと思えばイヨロンドも落ち着かない。
【前回の記事を読む】祖父の異変、床に広がる赤い染み…。「こちらへ来るでない」十歳の溺愛する孫娘に遺した酒豪の領主ゴルティエの最期の言葉
次回更新は12月7日(土)、18時の予定です。
【イチオシ記事】「リンパへの転移が見つかりました」手術後三カ月で再発。五年生存率は十パーセント。涙を抑えることができなかった…