「踏むでないぞ! マルゴ、こちらへ来るでない。誰か人を呼んで参れ!」

いつもは優しい祖父の急いた厳しい声音がマルゴを怯えさせた。なぜ叱られたのかと泣き出しそうな顔で立ちすくむマルゴに、さらに祖父の声は飛ぶ。

「早う行け!」

コルドレイユのゴルティエの訃報がプレノワールのカザルスのもとに届けられたのは、翌朝、空がやっと白んだばかりの頃だった。

酒豪で知られたゴルティエは、酒とともに、腹からおびただしい血を吐き出した。孫娘のマルゴは祖父が酷く酩酊しているものと思って父を呼んだが、エルンストはその知らせに顔色を変えた。

急ぎ駆けつけたがゴルティエはもうすでに虫の息で、数人がかりでその巨体をやっと寝台に移すとすぐさま昏睡し、そのまま意識を取り戻すこともなく夜更けに果てた。

「あのお方らしく、死にっぷりも豪快じゃったな。大きな体を揺らしながら、お下劣なことを言うては皆を笑わせておった姿が懐かしいわ。何とも憎めぬお方であったな」

親交の深かったカザルスは、何事によらず剛胆で潔かった盟友の死を悼んだ。

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次回更新は12月6日(金)、18時の予定です。

 

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