第1章 入居者と暮らしを創る30のエピソード
20日目 食べたいものは食べたい
人間が生きていくためには「衣食住」が必要であるといわれます。老人ホームに入居すると、入居者の興味が集中するのは「食」であると思います。もっとも、入居者でなくても、美味しいものを食べたいという欲求を持つことは普通でしょう。
「食べたいものは食べたい」というのは、これが通常の元気な方であれば、自分でお金を払って、それこそ食べたいものを食べても、誰かに咎められることもないのです。しかし、これが老人ホームとなると話が変わります。
そもそも老人ホームに入居される方は、身体的に不安がある方がほとんどです。そのため入居される際、事前に老人ホームで生活するために必要な情報を確認する流れになっています。この情報の中で食事のこと、つまり食形態や塩分の状況を細かく確認しています。
高齢期になると食事を摂取するうえでの嚥下機能(飲み込むための機能)が衰えてきます。そうすると入居者の身体的状況を見ながら、入居者が食べやすいように「刻み」であったり「ペースト」であったりと食形態を調整する必要があります。
また、循環器系の疾患のある入居者であれば「塩分量の調整」であったり。場合によっては「肉類の摂取禁止」などというケースもあります。
ここで、健常者のように食への欲求を自己責任で満たすことができれば何ら問題はないのですが、老人ホームではそうはいきません。なぜなら、入居者の身体的状況によって「食べられないもの」があるからです。