仮に、入居者本人が「食べられないもの」をどうしても食べたいと言い、老人ホーム側がこれに従い、万一事故が起こった場合には、運営会社側は善管注意義務違反に問われてしまいます。
一旦老人ホームに入居すると、外出する機会が減少する傾向になり、そうすると一層、老人ホームでの食事に非常に興味が向かいます。そのような入居者の方との経験談です。
入居者の林さん(仮名)はアメリカのハーバード大学でも教鞭を執られた著名な大学教授。年齢はまだ60代後半ですが、心疾患と脳梗塞を起こされて手術の後、病院から私が施設長を担う老人ホームに入居されました。
お話を伺うと、戦後に新制高校を卒業してすぐにアメリカに渡り教授となられたとのことでした。日本が敗戦直後でもあったため、いろいろと苦労されたとお話されました。
例えば、アメリカに向かうのに1ドル360円の時代でしたからお金の工面が本当に大変だったこと、大学で学ぶため、そして生きるために綿花農園で、それこそ奴隷のような扱いを受けながらも必死に働いたこと。
また、一生懸命に夜まで、大学図書館で勉強をしていると大学の同級生に本を隠されるような虐めを受けるなど大変な思いをされたそうです。
しかし、このような苦難を乗り越え、その道の第一人者になったということは、いかに林さんが自分の信念や考え方を強くお持ちだったのだろうと感じていました。
林さんは病院から、食事制限、特に肉類の摂取については、極力抑えるようにという指示を受けました。よって、当施設の林さんへの食事の提供は、おのずと菜食が中心となりました。