其の弐

「くっくっく‥‥そうだ、そうに決まっている」

彼は声を殺して笑い始めた。電車は長いトンネルを抜けて葡萄畑の中を走っていた。進行方向に盆地が広がり、もう間もなく終着駅なのだと知れた。

   

古い木造駅舎の前にはバスがずらりと並んでいた。少し開けたものの相変わらず谷の中にいるといった風情だった。新島々と書いた駅名看板があるのだが、何と読むのか判らなかった。

「シン、シマジマ‥‥ニイ、シマシマ‥‥アラシマ、トウ?」

骸骨は暫らく小首を傾げて読み方を考えていた。だがベルが鳴り出したので周章てて切符を買い求めた。松本行きだった。電車は間もなく発車した。気温はかなり上昇して、乗り合わせた客は皆顔にハンカチを当てていた。走り出すと開け放した窓から風が入ってきた。車内へ躍りこんでくる風は生暖かく、却って汗を誘うかのようだった。

窓外には田園風景が広がり、骸骨は座席に膝座りしてその様子に魅入っていた。電車はよく揺れた。ゴトンゴトンと派手な音を立てて、その合間に蝉の声が聞こえた。

外の風景に飽きると車内へ視線を転じた。半ばほど埋まった客席では皆思い思いの格好をしていた。おしゃべりをしている少女たちもいた。席が開いているのに立っている少年の一団がいた。買物風の女性もいたし、子供もいた。何故かよく判らないが、骸骨はその人たちに見られているという印象を受けた。

初めは衣服が汚れているのかと思ったが、別にそんなこともなかった。奇異な格好をしている訳でもなかった。それで気のせいだろうと思った途端ハッとした。