其の弐

礼を言って後を見ると、現われたのはオンボロの軽トラックだった。後部からボボボと青白い煙を吐き出し、エンジン音は賑やかなのだがちっとも前に進まない。全体が錆びに覆われ、色も白なのか何色なのか見当もつかない。乗っていたのは老婆にお似合いの老人だった。男が老けているのか、老婆が歳の割に若いのかちょっと判別がつかなかった。

「さあ、乗んなせえ」

そう言って左のドアを開けてくれたものの、シートはバネが跳び出ていた。それでも何とか乗りこんで老婆に礼を言うと車は走り出した。グオーン、バシバシュ、ゴゴゴ‥‥。何だかもの凄い音がした。まるで工事現場の間近にいるといった調子だった。エンジン音は賑やかなのだが、まるで自転車くらいの速度しか出ない。まだいくらも進まないうちに後続車の列が重なってきた。

骸骨は気が気ではなかったが、老人は涼しい顔をしてハンドルを握っている。時々後を見るのだが、車の列はどんどん長くなっていく。一方老人の車はもくもくと煙を上げて悠然と進んでいく。わが道を行く堂々たる運転だった。これもまた一種の交通違反ではないのか知らんと思った。

そして二十分後に私鉄の駅に着いた時には、むしろ歩いたより疲れたような気がしたのである。