自分は骸骨であって人間ではない。そのことに感づかれたのだろうか。思わず帽子を目深に引き寄せようとして、やっと一つのことに思い当った。

この暑気の中で長袖の服を着て手袋をしている。それに帽子や濃いサングラス、妙に動きのない表情や子供っぽい行動、これでは人目を引かない方がどうかしていた。骸骨は思わずにこにこと隣の人に話しかけようとした。だがその若い女はそそくさと席を立つと、揺られながら向こう側へ移っていった。

「実ハ滅多ニ外ニハ出ナイデスシ、電車モ初メテデシテ‥‥」

そう説明してみようと思ったのに、話を聞こうともしないのだ。頭の中が白々と冴えてきた。朗らかな気分はもう消えていた。

ゴトンゴトン、ガタンゴトン、電車は相変わらず派手に揺れていた。骸骨は背筋をしゃんと伸ばすと真っすぐに前を見つめた。

無視されるか好奇の目で見られるか、いつもそのいずれかだった。本当の姿を見せれば、悲鳴を上げるか嗤いものにするか、そのいずれかだった。

だが全ての人がそうだと言うことも出来ない。現に先ほど雑貨屋の老人は親切にしてくれたではないか。正太だってそうだ。最期には逃げられてしまったものの、あの場合無理もなかった。こちらにだって落ち度があったのだ。

ふと渋谷医師の顔が浮かんだ。そうだった。骸骨の正体を知っていながら、まともに相手をしてくれたのは彼一人だった。仮に親切な人がいたとしても、それは骸骨の正体を知らないからそうしてくれただけに相違ない。

自らの姿を隠しながら、その一方で相手に心を開いて欲しいと望んでいたのだ。そのムシの好さに骸骨はまだ気づいていなかった。