ぽろもきにとって、この古い一軒家の中でいくらか心が落ち着く場所が風呂場だった。大きめの古い桶に水を入れて、薪で湯を沸かす原始的な風呂であったが、窓を開けると外の自然いっぱいの空気を吸いながらのんびりできた。

明るいうちに風呂に入ると、山の景色も遠くに見えて、けっこう快適だった。昼間は、周囲の自然に癒されることもあったが、夜に風呂に入ると、いつも自然と涙がこぼれた。

自分で自分が嫌いであることを味わってしまう。泣き虫で、計算能力が低くて、叱られてばかりいる役に立たない人間のクズ……。

父から言われた「だからおまえはダメなんだ。人間のクズだな」という言葉が、夜になると頭の中で勝手に再生された。

「だからおまえはダメなんだ」の“だから”が特に強烈で、如何に父親が日常的に様々な場面でぽろもきに対して不甲斐なさを感じていたかが、はっきりと表現されていたからである。

―僕は人間のクズからはい上がれるかな。やっぱり計算は苦手だな。次の面接試験までに、どれだけ計算能力が上がるか不安だな。ダメだったらどうしようかな。こんな僕だけど、誰かの役に立てる人間になりたいな……。

明日は少しでも計算の練習をたくさんしようと、自分に言い聞かせて眠る毎日だった。現実は、次の日も計算の練習はあまり進まなかったが。