家族の中の孤立
古い家の中には、父の会社で余ったスープの缶詰が大量に放置してあった。ぽろもきは、毎日このスープを飲んで暮らすことにした。そうして再試験の連絡が来るまで、1人で苦手な計算の勉強を続けて、少しでも成績を上げるしかなかった。
森の中は人の気配が感じられないが、港からこの家にたどり着く途中には、この島の人々が住んでいる建物がけっこうあった。まだ早朝だったので人とすれ違うことがなかった。
だが、住人たちと会話をすることも煩わしかった。「どこから来たのですか」「どうして、ここに来たのですか」「どうやって生活するのですか」などと質問された時に、なんて答えたらいいのか考えていなかったし、不甲斐ない自分の生い立ちや、家族から遠ざけられてここへ来ていることを、説明せざるを得ない瞬間があるだろう。他人に傷口を突かれるに決まっている。だからできる限り引きこもりたかった。
それは、もうこれ以上自分の価値を下げられることに抵抗する心理というか防衛本能だった。どう考えてみても、落ちぶれた人間か親不孝者としか思われないだろうと想像できた。
「もっと頑張れよ」とか「贅沢な暮らしをしてきた根性のない奴だ」なんて言われそうで仕方がなかった。それこそ、贅沢をしなければ、誰にも会わずに、この古い家に1人で住んでいることが可能だった。すぐ近くに湧水があり、飲み水にも困らなかったからだ。