2章 一本道と信じた誤算

翌日午後1時過ぎ、あさみは理緒子と一緒にタクシーでパーティー会場のJホテルへ向かっていた。湘南の海岸沿いにある古いホテルだ。

「W/Sって、何さ」

理緒子はプログラムを開いて眺めていたが、意味がわからないので、あさみに返してよこした。したがって答えなくてもいいというわけだが、あさみは口を開いた。

「ワークショップ。『新しいダンスを講習します』ってこと。アスダンスパーティーというのは、ほんとにまじめな講習行事なの」

理緒子はあざ笑いらしき鼻息を漏らして(声にも音にもならない、単に気配というのに過ぎなかったが)、ツンと窓のほうを向いた。まじめな行事、などという言葉に軽蔑を示したのだ。

「きのう、土曜日ね」

あさみが言った。「和代と二人で母校を訪ねたの」

理緒子は退屈そうな様子で、タクシーの座席の狭い場所で足を組みかえた。

「あ、そう」

胴体の短いバスが路地を曲がってこちらへやってこようとしている。タクシーはひとまず横っちょの空き地に入ってバスを通した。渋滞する国道を避け、裏道を走っているのだ。

「笑うことイコール幸せだったあのころのこと、理緒子は思い出すことないの?」

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