カードの一枚一枚に大真面目な顔で没入していく理緒子につられて、その場の誰もがあさみの人生の変遷を思い描き、いつしか理緒子の空想の世界に入り込んで危惧や驚きや歓喜をともに分かち合っているのだった。
あさみの兄は別の目で理緒子を見ていた。
――淫乱な女は14、15歳で、もうその目に男達を錯乱させる光を持つと言われる。15歳の理緒子の眼差しには、人を魅了する熱い力がすでに備わっていた。兄の目が男の目になっていたというのも不思議ではない。
あさみはあさみで、たわいない遊びにも真剣勝負のように挑める理緒子の才能を改めて認識し、大いに感化されたものだ。その後会社の同僚達とお茶を飲んだときに、真似してカード占いを試してみたりしたのだが、あんなにうまくはいかなかった。
理緒子は一瞬にして深い心境まで到達するのに、あさみはそこまで想像する力が自分にはないのを感じる。また、集中力が切れてこれ以上続けられないとなると、理緒子はポンと投げ捨てて終わりにするが、あさみはなんとか頑張って、切れた糸をお義理にもつないで持たせようとする。
どうしてそんなことをするのか、それが自分でもわからない。以来、兄は早熟の理緒子に興味津々となり、いろいろ知りたがって妹のあさみをうるさがらせた。ニューヨークへ赴任すると、あさみにせがんで理緒子の様子を頻繁にニューヨークへ書き送らせた。というのも理緒子は”男の人”から手紙をもらって返事を書く人間ではなかったからだ。
”男の人”からもらったラブレターとは、理緒子にとって、いい気分にさせてくれる言葉のプレゼント、友達に見せてひと笑いする話の種、二つ穴を開けてファイルしておく愉快な記念、そういったものでしかなかったのだろう。
あさみの兄が東京へ戻ってきたとき、理緒子は大学生で大勢のボーイフレンドに取り巻かれていた。妹を長い間わずらわせ、気をもませたにしては、兄はあっけなく興味を失った。彼は今、3人の子の父親となって千葉にいる。