一、ロワール城物語

「彼は欲求を満たしたら、はっと我に返ったように急いで身支度をして、未練など何もなさそうにドアを閉めて去るの。彼を見送ったあと、部屋がうすら寒くなって身体がぶるぶると震えるのよ。楽しいひと時はいつも束の間で、ほとんどは寂しい時間の連続なのよねえ、そうじゃない、クリスチーヌ」

「そうだわねえ、楽しい時はすぐ終わりますね、何故でしょうね、サチ」そういう関係が三年も続くと、やはり我慢しきれなくなる。

「私は、今夜は泊っていって、とせがむようになったの。彼は困った顔をして、無理だよ、とだけ言って去るの。私は、また我儘を言って彼を困らせてしまった、と反省しながら、たまには泊ってくれたっていいじゃない、と、ため息をつくことの繰り返しだったわ」

「うーん、でもそういう寂しさも含めてサチは幸せだったんじゃねーの」と、クリスチーヌは慰めるように言った。

そんなある日、突然幸のアパートに訪問者があった。ドアを開けるとそこには和服を着た品のいい婦人が立っていた。

「前野幸さんですね。わたくしは風間の家内でございます」と。

幸は驚いて咄嗟にドアを閉めてしまった。

再度チャイムが鳴らされると、すぐにドアを開け、

「ドアを閉めてしまって申し訳ありませんでした。どうぞお上がりください」と、夫人の足元にスリッパを置いた。

「いいえ、ここで結構です。すぐに去りますから」