途中まで聞きかけて、その先が言葉にならなかった。聞き出せるはずもないことだ。

「おにいさんよ、俺のことを悪いやつだと決めつけてやしないかい。それは偏見ってもんだぜ」

ジョジョは笑っていたが、言われてひやりと汗が出た。たしかにこの男は見るからにやくざ者だが、恐れるのはキーラから聞かされた印象を交えているからかもしれない。エゴルは下を向いたまま口をつぐんだ。

「ニコにはでかい貸しがあるんだが、もしかしたらその捨て子の件で帳消しって目もあるかもな。運のいいやつだぜ、まったく。ま、俺の決めることじゃないからあてにすんなよ」

ジョジョの顔がガラスの向こうに消え、エンジン音がエゴルの腹を揺るがせたかと思うと、黄色いスポーツカーはあっという間に通りを出ていった。

それを見送ってエゴルが再び店の中に戻ると、レジの前で店主は英雄でも迎えるような顔で待っていた。

「エゴル、立派だったぞ。見直したよ。カーシャを守ってあのチンピラ相手に注文をつけるなんて、なかなか大した度胸だ」

そう手放しでほめられるとエゴルも照れてしまう。真面目に見られるのが様にならなくて外ではちょっと崩しているが、家に帰れば母親に頭を踏みつけられた子蛇みたいなものだと自分のことは知っている。けれども、先日キーラに頼られたことで、ジョジョに対しては奮い立つものがあった。カーシャのことは、前に集会所でサッコが見せた配慮をまねてみたのだ。

「俺、ちょっとサッコみたいになってただろ」

「ああ、十分にサッコの代わりだったよ」

くる客くる客に店主が喋って聞かせたので、この日のできごとは夕方には村中に伝わった。カーシャの身元が判明するかもしれない、というのがおおかたの村人の関心だったが、キーラが知りたいのは別のことだろう。エゴルがタバコを吸いながら夜の広場で待っていると、案の定、彼女が血相を変えて飛んできた。

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次回更新は11月23日(土)、21時の予定です。

 

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