「断っておきたいんだけど、彼は、なんて言うか、ちょっと他とはちがうんだ。顔見知りの村の者とばかりいるから安定しているけど、知らない人のことをどう思うかわからないんだ。脅かしたり、怖がらせたりするとパニックを起こすかもしれない。頭だか心だかの病気なんだよ」
「はあん、ますますもって当たりだな」
エゴルの言葉にもジョジョは歓喜するばかりだ。
「そんな事情だから、あの子を一人で会わせるわけにはいかないよ。日に三度、あの塔にくるから、俺たちが一緒にいるそこの広場でそっと会ってほしいんだ。意地悪で言ってるんじゃないよ。カーシャの精神状態を守ってやりたいだけなんだ」
エゴルが男の気に障らないように頼みこんで、ようやくジョジョも納得した。
「じゃあ、いつ会わせてくれるんだよ、そのカーシャちゃんとやらにさあ」
「正午すぎでどうですか。毎日ぴったりに上にいて、十分もしないでおりてくるから」ああ、と了解したもののジョジョはふと鐘のことを思い出した。
「おい、鐘はないんだろ? ニコが売ってしまったってこの間あんたから聞いたぜ」
「ないけど毎日いく。俺たちにはプログラムの解除方法がわからなくてね。そういうことだよ」
エゴルが肩をすくめると、ジョジョは納得がいかないまま、ふんとうなずいた。
店の外まで一緒に出て、車に乗りこむところまで見届けた。運転席に座ったジョジョがもう一度顔を見せたので、エゴルは身を屈めてこっそりたずねてみた。
「あのう、ニコは……ニコの消息はもうわかったんですか」
「まだだが、そのうちだな」
そのうち、とは何を意味しているのだろう。淡々とした男の口ぶりがエゴルにはかえってそら恐ろしく感じられた。
「ニコを捜し出して、いったい何を……」