ここで思い出すのは、第3回研究会(2014年、久保田健夫会長、成育医療センター)の懇親会で特別講演を行ったハンソン氏と、DOHaD の名称について、個人的に話し合う機会があったことです。FOADからDOHaDへの流れについて話が進んだ時、私はこう言いました。
「FOADは日本語の学術用語が、ドンピシャリ当てはまる。しかし、DOHaDは言葉で説明はできるが長たらしく、適切なインパクトのある学術用語が見つからない」
ハンソン氏は、不思議そうな顔をして聞いていましたが、当然のことながら、DOHaDが学術用語としての日本語と相性が悪いという意味は、なかなか英語圏の人々には理解しにくいと思いました。
DOHaDを語る時に、必ず出てくる言葉が、「エピジェネティクス(Epigenetics)」です。たいてい、次のような説明がなされます。
「エピジェネティクスとは、遺伝子DNAの塩基配列に変化を伴わずに、遺伝子の機能制御・調節が行われるメカニズムである。これは、環境の変化によって影響されると考えられる。すなわち、病気の発症には遺伝と環境の両方が関わっている」
このような「エピジェネティクスの説明」に、私は、いつもわかったつもりでも、何か掴み所のないような感じを伴っていました。ここに成書から、もう少し踏み込んだ説明を求めてみました。DOHaDの日本語訳がないように、エピジェネティクスの日本語訳がないのも、よくわかります。
1│ Gluckman PD, et al. A conceptual framework for the developmental origins of health and disease.JDOHaD 2009 doi: 10.1017/S2040174409990171
2│ Kermack WO, et al. Death rates in Great Britain and Sweden. Some general regularities and their significance. Lancet. 1934; 698-703
3│ Aerts L, et al. Is gestational diabetes an acquired condition? J Dev Physiol. 1979; 1: 219-225
4│ Forsdahl A. Are poor living conditions in childhood and adolescence an important risk factor for arteriosclerotic heart disease? Br J Prevent Soc Med. 1977; 31: 91-95
5│ Notkola V, et al. Socio-economic conditions in childhood and mortality and morbidity caused by coronary heart disease in adulthood in rural Finland. Soc Sci Med 1985; 21: 517-523
6│ Gennser G, et al. Low birth weight and risk of high blood pressure in adulthood. BMJ (Clin Res Ed) 1988; 296: 1498-1500
7│ Chavatte-Palmer P, et al. Diet before and during pregnancy and offspring health : The importance of animal models and what can be learned from them. Int J Environ Res Public Health 2016; 13: 586
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