見事な合唱だ。

ハルとナツは、お互いの顔を見合わせた。

テーブルの五人全員が笑い、ウェイトレスも笑っていた。

引き続きマルス店内で、五人は、ケーキを食べていた。

ナツは、茂夫の横顔を見た。

「ところで、シゲじい。日本人の馬賊頭目っていたのね」

「うむ、いっぱいおるわい。伊逹順之介、小日向白郎(こびなたはくろう)、根本豪、松本要之助、もっと古くは薄(うすき)益三(ますぞう)と薄(うすき)守次(もりじ)、日本人の馬賊頭目っていうのは、決して珍しゅうはない」

「そうなの? でも、私、馬賊って、もっと、こう、時代劇みたいなイメージがあったの。あんなモダンな格好をした人達だなんてびっくりしたわ」

「まあ、馬賊って言っても色々おるからのお。あの雪舟という男は、かつて、イギリスやアメリカに留学しておったという話は聞いたことがある。元海軍将校じゃとも、フランス外人部隊におったとも……。あいつは、北満州最大の馬賊集団のリーダーじゃった。『北満のシリウス』という異名で有名じゃった」

ハルが、反応した。

「シリウスって、星のシリウスでしょ?」

「何でも、中国では、シリウスのことを天狼(てんろう)星というそうなんじゃ。つまりオオカミじゃ」

今度は、ナツ。

「とても、ハンサムな人よね?」

「男前ということでも有名じゃったが、あの顔が、戦いの時には、狼のように鋭くなるらしい。そこから、ついた名前じゃそうじゃ。まあ、何とも、仰々しいあだ名じゃのお……。昔は、本当に色んな馬賊団が群雄割拠しておったが、支那事変以降、ほとんど噂を聞かんようになった。今、連中の世界がどうなっとるのか、ワシにも、よう分からん」

「それで、あの人、カミヤマ……」

「上山雪舟じゃ」

「そう、あの上山雪舟っていう人は、悪い人なの?」

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