フユは幸せそうにチョコレートをカリッとかじりながら、斜め前のナツの顔を見た。
「おいしいネ」
モグモグとチョコレートを味わうナツの視線は、自分が右手につまむチョコレートにくぎ付けだ。
「うん、おいしい!」
口の中に広がる、とろけるような甘さ。辺りに漂う、カカオの香ばしさ。
茂夫も満足そうだった。
「内地だったら駄菓子屋の板チョコぐらいだしのお」
ナツは、ますますハイテンションになった。
「このお皿が、また素敵だし、お店の雰囲気もお洒落だしねえ、もう最高!!」
ハルが、通路の先に目を向けた。
「ほら、ケーキが来たわよ」
ロシア人のウェイトレスが、ケーキを色々載せた大皿を持って現れた。
フユが、嬉しくてたまらない様子で、体をよじらせた。
「すごい!」
「この中から、好きなのを選んでいいのよ」
ナツが立ち上がった
「私はね、そのイチゴのと、そのメロンのと、一番向こうのチョコレートケーキと、このチーズケーキと、それから……」
「ナツぅ~! そんなに欲ばっちゃうと、後でお料理が食べられなくなっちゃうわよ」
「だってえ~。行くお店の順番変えたの、お姉ちゃんでしょ?」
「まあ、そうだけど、ほどほどに、ね?」
「こういうところは、似た者姉妹じゃわい」
ハルとナツが、同時に茂夫の顔を覗き込んで、声を揃えた。
「それって、どういうことですかあ? あれ?」