北満のシリウス
八月七日 午後三時四十分頃 ハルビン キタイスカヤ 喫茶店マルス
「え~と! どれにしようかな?」
そう言いながら、ナツがふと見上げると、ガラスケースの向こうでは、店員の美しいロシア人少女が、ニコニコしながら、こちらを見て注文を待っている。でも、ハルは、そんなことはどうでもいいようだ。
「私は、これと、これと、それと、あれと」
「お姉ちゃん、そんなに一人で食べちゃうの~?」
「皆で食べて、食べ切れなかったら、持って帰ればいいのよ」
「フユは、自分で選びたい」
「僕もだよ」
「そうだよ、お姉ちゃん。一人で盛り上がりすぎだよ」
「ハッハッハッ、ハルさんが一番子供じゃのお!」
ハルは、茂夫をジロリと見た。
「それって、どういう意味ですか?」
そして、すぐに気をとり直した。
「皆、好きなのを選びなさいね」
ハル達は、マルス店内で、キタイスカヤの通りに面した窓際のテーブルの席に着き、それぞれが、自分のお皿に載ったチョコレートを アイスティーを飲みながら、つまんでいた。
テーブルの片側にハルとアキオとフユ、反対側には茂夫とナツが座っていた。四人は、クチャクチャと音を立てながら、食べることに夢中だ。