第一章
五
それらの遊びでは、負けた方が酒を飲むという決まりがあったが、最年長でヨンケルと同じ四十四歳の山本覚馬は加わらず、一人静かに酒を楽しんでいた。
宴はしだいに、大盛り上がりとなっていった。
万条と安妙寺は座敷の隅で、そんな大人たちの遊びを遠慮気味に見守った。何もかも初体験で、さすがにその輪には入れなかったのだ。一方、ヨンケルは芸妓や舞妓の白塗りの顔と、その華やかな衣装に興味津々の様子だった。
酔いも手伝い、すっかり舞い上がっていて、とうとうそんな他愛もない遊びにも、喜々として参加するようになっていた。
*
その夜更け──。
ようやく宴がお開きになると、京都府の重鎮の槇村、山本、明石、それに通訳の大木は、安妙寺に見送られて先に帰って行った。
結局、最も芸妓遊びに夢中になったのはヨンケルだった。
最後まで帰ろうとせず、医師宿舎に戻る人力車には、万条がお供することとなった。屋敷が近いため、送り届ける役目を買って出たのだ。
月明かりのない中、人力車は京都の街をゆっくりと進んだ。提灯をぶら下げているものの、足元はかなり暗かった。そしてヨンケルの宿舎のすぐ手前まできたときだった。
「おーい」と、後ろから声が聞こえてきた。