第一章
五
ヨンケルはまず、木でできたラッパの先端のような形の道具を手にすると、母体の腹部に押し当てた。反対側を自分の耳に当て、しばらく聴いた後、納得した顔で、妊婦に優しく語りかけた。
「心配いりません。赤ちゃんは大丈夫です──」
一瞬、妊婦の目が輝いた。そして無言で頷いた。
「では、ミョー」
次にヨンケルは、安妙寺に向かって言った。
「それを取ってください」ヨンケルが指さしたのは、持参した往診鞄だった。その中に、今から使う道具があるという。
胎児は逆子(さかご)で、しかもかなり横に向いていた。それが分娩の進まない原因だろうと、ヨンケルは彼らに説明した。
そのあとヨンケルは、妊婦の腰の下に枕を挟ませ、きれいな湯で両手を充分に洗浄した。
そして右手で妊婦のお腹を押さえ、左手を膣から差し入れながら、胎児の位置を確かめた。
続けてヨンケルは、ゆっくりと右手を回旋させ始めた。胎児の位置を修正するつもりのようで、そのとき強い陣痛が始まった。
妊婦の腹部がみるみる変形し、胎児の一部が外陰部から見え隠れするようになってきた。とはいえ、分娩に至る気配はまったくなかった。
汗を滲ませ、ひたすら耐える妊婦の姿が痛々しかった。そんな状況が数回続いた後、ヨンケルは意を決したように口を開いた。
「鉗子(かんし)を使いましょう」