第一章

「山本さんも、どうぞ」

明石は次に、山本覚馬にも酒を勧めた。

「ははっ」と、覚馬はにこにこしながら、手探りで盃をつまんだ。

だがその動作を見て、ヨンケルがふと訊いた。

「もしかして、眼がお悪いのですか?」

「さようです。蛤御門(はまぐりごもん)の折に──」

瞼を閉じたまま、覚馬は肯いた。元治元年(一八六四年)の蛤御門の変に参戦したさい、眼を負傷してしまったという。

「眼の方は、長崎でボードウィン先生に診てもらいましたが……」覚馬は諦めたように言った。

ボードウィンは、長崎でポンペが設立した医学校を引き継いだ、二代目オランダ人教師だった。維新後は大阪や東京でも活動し、万条も名前だけは聞いたことがあった。

覚馬はその後も、不自由な眼で会津藩のために奔走した。

しかし、慶応四年(一八六八年)一月に勃発した鳥羽伏見の戦いで、薩摩藩に捕らえられてしまう。京都の薩摩藩邸で幽閉されているうちに、脊椎も痛めてしまい、以降は歩行もままならなくなっていた。

岩倉具視とは、その頃に知り合ったらしい。岩倉公のおかげで、明治二年(一八六九年)にようやく解放されると、そのまま京都に居残った。翌年から京都府へ出仕し、京都の復興に尽力することとなったが、両目はすでに失明していたのだ。

「一度、私に診察させてください」ヨンケルが心配そうに申し出た。