覚馬はいたく感激した様子で、近いうちに必ず受診すると約束した。ヨンケルは産婦人科と麻酔科が専門で、イギリス産婦人科学会の正会員でもあったが、外科と眼科も得意としていたのだ。
「お待ちどおさまどすぅー」
仲居の声が響き、襖が大きく開け放たれた。膳に載せられた料理が運ばれてきて、いよいよ歓迎の宴が始まった。
「すごいな……」
豪勢な料理の数々に、万条は度肝を抜かれた。
「ほんまやな……」と、安妙寺も唖然としながら言った。
まずは、賀茂茄子の油焼と、木耳(きくらげ)入りの玉味噌掛けが目の前に並べられた。
食べ終わった頃を見計らい、主役の鱧(はも)が出された。口直しは枝豆とふり柚子で、特に田楽豆腐は、名物らしく素晴らしい味だった。
「オー、バッケ!」と、ヨンケルもいちいち感激していた。
舌鼓を打ち、皿を平らげていくと、その小太りの腹が膨らんでいった。
「これは、柿右衛門の絵皿ですか?」空になった器を手に取り、ヨンケルが槇村に訊いた。
ヨンケルによれば、柿右衛門は江戸時代からヨーロッパに輸出されており、現地でも人気があるという。槇村がその通りだと答えると、ヨンケルは、
「色彩が、実に素晴らしいですね。それに、形との調和が取れています」と、褒め称えた。
それらは日本人の美意識にも通じるもので、槇村も満更ではなさそうだった。そして食事が、かなり進んだ頃だった。
槇村がそっと女将(おかみ)を呼びつけ、そのあとにやにやしながらヨンケルに告げた。
お腹もいっぱいになってきたことだし、お楽しみがあると──。
直後に、すっと襖が開いた。
「こんばんわー」