第1章 脳梗塞とはどのような病気か?

脳梗塞をよりよく理解するための基礎知識

◎ファスト(FAST)とは?

近年、「脳卒中が疑われたらすぐに病院を受診しなければならない」という脳卒中啓発活動が盛んに提唱されています。これらについては後述(PNLS、ISLSの箇所)します。

脳卒中救急の患者さんは、意識障害、頭痛、めまい、麻痺感覚障害、ふるえなどの不随意運動、言語障害、見当識障害などの症状を生じ、救急外来を受診されます。その中でも特に意識障害、頭痛、言語障害、めまいを訴える患者さんに遭遇する頻度が特に高いので、「FAST」の次に述べます。

「FAST」とは、受診前の脳卒中評価スケールの1つで、より簡潔に、3つの症状を取り上げた標語です。

Face(顔): 顔の麻痺。
質問:うまく笑顔が作れますか? 「イーッ」と言ってみてください。
観察:顔の片側が下がる。ゆがみがある。

Arm(腕): 腕の麻痺。
質問:両腕を上げたままキープできますか? 手のひらを上にして前にならえをしてください。
観察:片腕に力が入らない。片腕が下がる。

Speech(言葉):
質問:短い文がいつも通りしゃべれますか?
観察: 言葉が出てこない。ろれつが回らない。それで……、 えーと……、ね……、など。

Time(発症時刻): 症状に気づいたら発症時刻を確認してすぐ に119番通報を!

米国脳卒中協会では、脳卒中を疑う人を見たら、この3つのテストをするように勧めています。1つでも症状が出ていれば脳卒中の可能性大です。そして、最後に治療にとって重要な要素である発症時刻を加えたものです。

◎意識消失

急に倒れて呼びかても揺すっても反応がない、ということで救急搬送されたり、意識消失があったが、短時間で治ったりした場合に、心配なので後日外来受診されるという例を、脳神経内科や脳神経外科の外来ではよく経験します。

では、意識消失の原因にはどのようなものがあるのでしょうか。意識がなくなる前後にどのような症状があったかという情報は、診断をする上で大きな助けとなります。しかし、来院時には症状が全くない場合も多く、目撃者がいないと状況が不明で、検査でも異常がなく原因不明ということもしばしばあります。

患者さんはもちろん脳が心配ということで来られるのだと思います。脳が原因であれば命に関わることはもちろん、重大な後遺症を残してしまうこともあるでしょう。脳の病気では、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)、てんかん、脳炎などが原因であることが多いといえます。

脳卒中の場合は、重症度に応じて意識レベルにも大きな違いが生じます。重症なものは意識がなくなってそのまま回復せず、致命的となることもあります。

脳梗塞であれば詰まった血管、脳出血であれば出血部位や出血量などに応じて、重症度が決定します。 脳の血管が詰まって意識がなくなっても幸い血栓が溶けるなどして意識が戻ることがありますが、そのような場合でもより末梢の血管が詰まって何らかの神経症状が残ることがほとんどです。

つまり、一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attack:TIA)で、意識消失後全く何もなかったかのように意識が戻り神経症状も何もないということは稀です。