血液凝集・凝固の治療

血管性認知症は、脳動脈に血液の塊ができて脳に酸素やブドウ糖などが届かないため、神経細胞や神経線維が壊れて起こります。そのため、血液の塊ができないように予防することが大切です。もともと、血液が塊を作るのはケガなどによる出血を防ぐ生体防御の仕組みなのです。

しかし、高齢になり動脈硬化が進むと、出血もしていないのに血液が固まり、血流が悪くなります。血液が固まるには血小板やトロンビンなど多くの物質が関わります。これらをコントロールすることで血液の固まり方を調節して、血液の塊(凝集・凝固)を抑え、出血しないように治療します。

アスピリンは血小板の凝集を抑えて、脳梗塞を予防して脳血流を正常に保つので、血管性認知症に効くと思われますが、記憶障害などの認知症の症状に対する効果があるとの報告はありません。シロスタゾールやクロピドグレルなどの抗血小板薬でも同様です。

高齢者になると心房細動がよく起こり、そのために心臓に血栓ができます。その血栓がはずれて脳の動脈を詰まらせ、脳塞栓を生じる危険があります。脳塞栓を予防するため、トロンビンというタンパクに作用して血液凝固を防ぐワルファリンや直接作用型経口抗凝固薬(ドアック、DOAC)などの抗凝固薬が予防的に使われます。

しかし、薬の量が多すぎると、脳や消化器などに出血を起こします。DOACには投与開始時に腎機能や体重や年齢で用量が決まっているものもあります。ワルファリンは定期的に採血して、投与量を慎重に決めなければいけません。

血管性認知症の治療薬

血管性認知症の治療薬として効果の認められた薬は現在ありません。そのため、十分な予防を行い、血管性認知症になった人には介護やリハビリテーションを行っています。

血管性認知症の介護とリハビリテーション

血管性認知症のケアもアルツハイマー病と同じように進めますが、血管性認知症の人はアルツハイマー病の人より介護者を頼りにしています。身体も心も意のままにならず、孤独になって、不安がつのるからです。

それを解消するために顔見知りの頼りになる人が介護してあげると、行動面、感情面、認知機能も改善することがあります。

歩行障害のある人のために、車椅子などの補助具や住宅の改修に向けた補助などにも介護保険は利用できます。脳血管障害の後遺症として現れる言語障害や歩行障害などもリハビリテーションは効果があります。病院やデイケアで受けるリハビリテーションに加えて、理学療法士や作業療法士などが認知症の人の家へ出張するリハビリテーションも可能です。

リハビリテーションは、運動や会話の機能だけでなく認知機能も改善します。また、脳血管障害前の生活に近づくと、落ち込んでいた感情や意欲が回復して、積極的に治療に取り組むようになります。脳血管障害になっても諦めない姿勢が本人、家族ともに大切です。