第一章 昭和時代、平成時代の思い出

レコードショップの存在も懐かしい思い出です。今のようにオンラインストアや大型音楽ショップもない時代、店内には独特の香りが漂っていました。まだレコードが主流時代のショップゆえにレコードを包む表紙の紙の臭いと店長が吸うタバコの臭いが融合された特有の臭い。店長も音楽を愛して生きているようなそんな雰囲気の近寄りにくい若手の男性でした。

いつもは欲しい商品をカウンターに出し、お金を授受しあうだけの関係。言葉を交わす必要もなかったある日、試練が訪れました。店長と言葉を交わさなくてはいけない日がとうとう来ました。それは人気歌手の1stアルバムをどうしても予約・購入したくて。初回予約購入特典あり! に背中を押されました。

「アルバムを購入したいのですが」

と、蚊の鳴くような声で店長に伝えました。記入用紙を出されて連絡先と名前を書いて提出をして終わるのかと思えば、

「今回のジャケットね、4種類あるけど、どれにする?」

(へっ!? 4種類!? 今、選ぶの?)

心の中では汗ビッショリ状態。想定外の質問にドキドキ。今のようにインターネットがなかったので、その情報までは入手できていなかった。不安を感じながら早くレコード店の外に出たいけれど、ジャケット写真デザインを選ばなければいけない。

あたふたしている姿を見た店長は「結構、これが人気あるよ」と助け船を出してくれる優しさに救われ無事予約完了。受け取りの日は心待ちにしていた商品を購入できるうれしさとお店へのかすかな愛着が湧き始め、心軽やかに安心した気持ちで入店するとこの日も店長は優しい笑顔で商品を渡してくれました。