第二章 イヨロンド

事を成し遂げるまでこの体が持ちこたえてくれるかどうか、村の問題を解決すると同時に自分は時間と戦わなければならない……それは避けられない現実だった。

「儂を味方につけておけ」

老医者のその言葉には、実際すがりつきたいような響きがあったが、その一歩に限りなく彼は躊躇(ちゅうちょ)していた。

イダはそんな彼の心の迷いを覗き込むかのようにじっと視線を逸らさない。

確かに、やり遂げなければ意味がない。気力だけに頼るのはあまりに無謀であったし、完遂させる覚悟にはそれだけの備えが必要でもあった。

「イダ様、とおっしゃいましたね」

「おう、ここではそう呼ばれておる」

イダは黄色い歯を見せて笑った。微笑むというにはあまりに奇怪である。

「イダ様を信用して申し上げます。ご推察の通り私はギガロッシュを通ってまいった者です。勿論、悪魔の村などではございません。当たり前に人が暮らす村が、あの向こうにはございます」

イダは深い息を一つ吸い込んだ。

「やはりそうか。遠い昔、医者や学者がギガロッシュに逃げ込んだと聞いておるが、その者たちとは関係があるのか?」

「はい、彼らが村の始祖でございました。それから二百年余り、私たちはあの岩の向こうで暮らしてまいりました」

「何と!」

イダは秘密の小箱が開いた感動に膝を打った。

嘘ではなかったのだ! 異国人のイダはその昔ギガロッシュにまつわる伝承をたくさん耳にした。