シャルルは語気を強めて母を叱責した。
「お前が持ちかけた? ふん、笑わせるわ。お前は正直の上に馬鹿が付くほどの何の面白みもない堅物よ、そのご立派な聖人面には虫唾が走って性に合わなんだ。お前にこれほどのずる賢さがあればもっと気が合うておったわ!」
図星である。
「あの御仁がお前をたぶらかしたのでないと言うなら、誰がお前にそんな余計な知恵をつけた?」
イヨロンドは妙に気味悪い猫撫で声を耳にからませてきた。
気後れしてあとずさったシャルルは思わず一瞬、シルヴィア・ガブリエルを振り返った。それを見てカザルスとバルタザールは、はっと目を見合わせ、イヨロンドもまたそれを見逃さなかった。
「お前か!」
イヨロンドは大仰(おおぎょう)に指さしながら二歩三歩と彼に近寄った。シルヴィア・ガブリエルは激しい憎悪に満ちた目で射抜かれて思わず下を向き、小さくなった。
「ほう、お前かえ、近頃召し抱えられた旅人とかいうのは。なるほど美しい顔じゃわ、どうれ、もっとよく見せてみい」
相変わらずの気持ち悪い猫なで声で近づいて、尖った指先で俯いた若者の顎を無理に持ち上げようとしたその刹那(せつな)、カザルスが大声を出した。
「奥方!」
イヨロンドがはっと振り返る。
「奥方よ、これだけは言わずにおこうと思っておったが、そなたがこうも往生際が悪ければ言わずにはおられまい。そなた、バスティアン・セルパントという者をご存知よな。まさか知らぬとは言わせぬぞ」
イヨロンドの顔がはっとひきつった。