第二章 イヨロンド

「正体不明? 急に行動に出たとすれば、その者の入れ知恵ということも考えられるな」

バスティアンは腕を組んだ。

「あるいはカザルスが一枚噛んでおるのかも、あれは品良く見せておるが油断のならぬ男よ。カザルスの方から持ちかけてシャルルをたぶらかしたか?」

イヨロンドは何か思案して宙を睨んだ。

「よし! ここで待っておっても始まらぬわ。シャルルがまだ帰ってこぬ気ならば、こっちからカザルスの所に乗り込んでやるわ。このままではすまさぬぞ。ギヨーム、お前も一緒においで! 私に考えがある」

イヨロンドが突然乗り込んで来たという知らせを受けて、それまで親睦気分で狩りだのチェスだのとのんびり過ごしていたカザルスとシャルルも気を引き締めた。

「やはり、血相を変えて来おったな」

カザルスの目が輝いた。

「いや、まさかここまで乗り込んで来るとは。どこまでも恥知らずな女でございます、あの母は」

シャルルは肩身が狭かった。

「何の、こうならねば儂には面白うないのよ」

稀代の物好きは笑って続けた。

「心配するな、あれからこちらもちょっと人を遣って調べさせた。いざとなれば切り札は握っておるから安心なされよ」

イヨロンドとギヨームを通してある中広間に、カザルスがバルタザールを伴って入ると正面に座り、シャルルとシルヴィア・ガブリエルがこれに続いて側面に控えた。