第二章 イヨロンド
フィリップ・ダンブロワの突然の死にも大いに関わり有りと疑われる男で、ノエヴァから怪しい医者を連れてきたのもこの男の差し金だった。
イヨロンドとギヨーム母子の周辺にはこうした曰(いわ)くつき、札つきの輩ばかりがたむろして、金と時間を無駄に費やしていた。
「母上、そう興奮なさるな、声が大きくて外まで丸聞こえですぞ」
「ふん、足元に火が付いているかもしれぬというのに、この能天気は平気かえ?」
イヨロンドはギヨームに顎を突き出した。
「お前が総領息子と思うたからこそ後ろ盾になっておったものを! 出来が悪いのは承知じゃが、父親に相続まで取り消されるとは、何でもうちょっとうまく取り入っておかなんだ!」
「お言葉ですが母上よ、父上は儂を嫌っておいでじゃったというよりは、母上を嫌っておいでじゃったのだと思いますがな。母上と等しく見られた儂こそ不運の子じゃわ」
ギヨームは不服そうに鼻の頭に皺を寄せた。
「一人前の口をお利きだね。頭の悪いお前にしてはよう言うたと褒めてやりたいが、馬鹿者! 総領だと思うたからこそ可愛がってきたものを、こんなことなら早う見限ってシャルルを手なずけておけばよかったわ」
冷淡な目でギヨームを睨みつけた。
「それが実の母親の言うことですかな」
バスティアンが親子の喧嘩に割って入った。
「罵り合う暇があれば対策を考えねばなりますまい。シャルル殿は何をしにカザルス殿の下(もと)へ? 封土、とは何でございますかな?」