「それよ、アンブロワが再び封土……とは何事じゃろうか?」
イヨロンドはこの身繕いに金のかかる愛人に謎解きを求めた。
「再び、ということは、はて? アンブロワの領土は先々代のギュスターヴ殿が戦で勝利された折に賜った領土とか。それはプレノワールも同じ事でございましたな。よってアンブロワとプレノワールは等しい関係ではあっても主従ではございませんでしたな。ふうん、ということは……」
バスティアンは思いつくままを声に出してみたが、イヨロンドはそれを注意深く聞いた。
「封土を頂く関係ができた? もしや……もしやシャルル殿はカザルス殿の臣下に?」
「どういうことじゃ!」
「い、いやわかりません。ただ、これまではアンブロワとプレノワールは封土なんのというような主従の関係ではございませんでしたから、その言葉が腑に落ちませんな」
イヨロンドと愛人はまた考え込んだ。
考えるのが苦手なギヨームは退屈になって肘掛け椅子にだらしなく沈み込んだが、テーブルの上の林檎に手を伸ばしながら誰に聞かせるともなく何気なく口走った。
「貰ったってことは、アンブロワはこれまでアンブロワのものじゃなかったってことか? 父上はアンブロワを誰かにくれてやってしもうたのか?」
イヨロンドとバスティアンははっと顔を見合わせて二人ともどもに叫んだ。
「それだ!」
突然の声に驚いたギヨームは短い手でようやく掴んだ林檎を取り落としそうになって、挙げ句に自分が椅子からずり落ちてしまった。
「あやつ、勝手にこの領地を! しかしそんなことができるのかえ? シャルルの相続には異議を申し立ててある。まだ完全にシャルルのものと決まったわけではないゆえ、相続人はこのギヨームぞ。長男を差し置いて勝手にシャルルがそのようなことを実際できるのかえ?」
イヨロンドは目をつり上げた。