シャルルたちが入った時、イヨロンドが俯いたまま上目遣いに鋭い視線を投げかけてきたのを誰も見逃さなかった。一悶着あるな……とカザルスは奮い立った。

「これは久しぶりですな、奥方。フィリップ殿のご葬儀でお目にかかって以来じゃ。ご息災であられたかな?」

フィリップの葬儀はたった二月(ふたつき)ほど前であったから、カザルスのこの挨拶は少々わざとらしく嫌味であった。イヨロンドは膝を折って恭し(うやうや)くお辞儀をした。

「その折にはカザルス様にはわざわざご参列賜り有り難うございました。突然のことでありましたゆえ、その後いろいろと片付けなどに追われておりまして、やっと今日こうしてギヨームともどもお礼のご挨拶に参じることができました」

手足の短いギヨームが母の目配せで頭を下げた。

「いやいや、それはご丁寧に。急なことでござったから、さぞかしお気を落としのことであろうな」

相手がイヨロンドであるから、その気がなくても何を言っても嫌味であった。

「はあ、しかしながら悲しんでばかりもおられませぬのでなあ。このギヨームとともに亡き夫の志を継いでアンブロワを守ってゆかねばなりませぬから。どうぞカザルス様にも今後ともよろしくお力添えをお願いいたしたく、そのご挨拶も兼ねてまいりました」

イヨロンドは何か含みのある顔でカザルスを見上げた。

「いやいや、アンブロワのことであるならご夫君もこのシャルル殿にすべてを託していかれたそうで、ご立派なご子息が二人もおられてよろしかったなあ。あとはゆっくり故郷のノエヴァで安楽にお暮らしなされよ」

カザルスは自分の言葉の一つひとつを実に痛快に感じていた。主がとぼけ面(づら)で心にもないことを言えば、従うバルタザールも相変わらずの涼しい無表情でありながら、内心は〝もっと言ってやれ〟とけしかける思いでいた。