「今朝、城代のジロンデル様のもとに書状が届きまして、配下にようやく盗み読みをさせましたところ……」

イヨロンドの息もつかず、瞬きもしない様子に怯えて彼は言葉を詰まらせた。

「何じゃ、早う言え! 何と書いてあった!」

「事は成った、アンブロワは再び封土として頂いたので何事も変わらぬから安心せよ。そう書いてございましたそうです」

「何! それはどういうことじゃ? アンブロワが再び封土?」

イヨロンドの青いこめかみがひくひくと動く。

そこへギヨームが、大きな襟ぐりの服を着たフランチェスカ・バターユと豪奢な刺繍を施したぴったりとした胸着のバスティアン・セルパントを伴ってやって来た。

ギヨームは短い手足に大きな頭、その中に胡桃(くるみ)ほどの脳味噌が入ったイヨロンドの長男である。

フランチェスカは彼の女友達で――と言っても怪物のようなギヨームの側へ寄ってくるような女など金目当ての尻軽くらいのものであったから彼女もその例に漏れなかった――バスティアン・セルパントはギヨームよりも三つ、四つ年上なだけのイヨロンドの愛人である。

もとは貴族の三男坊だが、家督を相続できずに諸国をふらつく流れ者となり、二年前にこのアンブロワにやって来てイヨロンドといい仲になっていた。

【前回の記事を読む】大至急、王の下へ使いを出し主従関係が成立したことを伝えるが、もしもこのことがイヨロンドの耳に入ってしまうと大変なことに…

次回更新は10月28日(月)、18時の予定です。

 

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