バルタザールはまだ笑いが止まらない。

「お前、いつまで笑うとる! あんな年端もいかぬ若者ではあのような老獪(ろうかい)な知恵などを持たぬわ。どうせ思慮深い坊主でもくわえ込んだのであろうな、旅の坊主でも」

笑いの止まらないバルタザールはその言葉にまた噴き出した。

「それも旅の者でございますか!」

しかしバルタザールはふいに笑いを止めて、低い声で付け加えた。

「あの青年は、年の割に妙に落ち着いて泰然としているように見えました。シャルル殿も何かと背後のあの者に目配せをしたり、窺うような仕草を何度かなさっておいでで。もしや、あの青年がその……旅の坊主かも?」

最後の言葉でまたバルタザールは噴き出した。

「阿呆! いつまで笑っておる! もうよいわ! お前はいつまでもここで笑っておれ!」

カザルスはそう吐き捨てると憮然として足早に先に行ってしまった。バルタザールはそれすらも可笑しくてまだ笑い続けていた。

「何じゃと!」

イヨロンドは血相を変えて叫んだ。シャルルの下(もと)に送り込んであった内偵が、一週間前にカザルスの所へ向かったシャルルがまだ戻らない、どうもこの相続問題の解決に向けて助けを請うため赴いたようだ……と報告してきたのだった。

「で、シャルルはどう助けを請うたのじゃ? 何を求めに行った?」

イヨロンドの小さな目が見開かれていた。

「はあ、それがあまりに突然、極秘裏に出かけられまして、当初は日帰りでお出かけかと思っておりましたが……」

「だから何をしに行ったと聞いておるのじゃ!」

まどろっこしい受け答えに業を煮やしたイヨロンドが苛立って詰め寄った。内偵はその剣幕(けんまく)に怯みながら答えた。