西行は刻々と変わる都の情報を集め、克明(こくめい)に歌に記録していた。

「世(よ)の中(なか)に武者起(をこ)りて、西東北南(にしひむがしきたみなみ)、軍(いくさ)ならぬ所(ところ)なし、打続(うちつづ)き人の死(し)ぬる数聞(かずき)く、お(を)びたゝし。まこととも覚(おぼ)えぬほどなり、こは何事(なにごと)の争(あらそ)ひぞや、あはれなることのさまかなと覚(おぼ)えて」

(世の中に武者が起こって、西東北南(にしひがしきたみなみ)、全国に戦(いくさ)のない所がない。

引き続き人が死ぬ数を聞くと、非常に大勢だ。本当とも思えぬほどである。これは事何(なにごと)の争いなのだろうか。あわれな事だと思って)

「死出(しで)の山 越(こ)ゆる絶(た)え間(ま)は あらじかし なくなる人の 数続(かずつづ)きつゝ」

(死出(しで)の山を越(こ)える死者の絶(た)え間(ま)はあるまいよ、これほど亡くなる人の数が続いては)

「木曾(きそ)人は 海(うみ)の碇(いかり)を 沈(しづ)めかねて 死出(しで)の山にも 入(い)りにけるかな」

(山育ちの木曾義仲(きそよしなか)は、海の神の怒りを鎮(しず)めることもできず、碇(いかり)を沈めてそこに留(とど)まることもできないで、死出(しで)の山にまでも入ってしまったなあ)

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