重源(ちょうげん)はそんな思いに急(せ)き立てられるようにしてあらゆる手段を講じて商船に乗り、入宋を企(くわだ)てた。

外洋の潮(しお)をかぶり異国の地を踏んできた長年の重源(ちょうげん)の勘が、彼自身に告げていた。目の前にいるこの老僧も、自分と同じくどこか枠(わく)に収(おさ)まりきらぬ器量を持った僧であるに違いない。

重源(ちょうげん)は、たたみかけるように声を大にした。

「円位上人(えんいしょうにん)は、昨今(さっこん)の世をどうご覧になりますか? 今や朝廷の威信(いしん)も地に落ち、仏の道も廃(すた)れています。ただ力だけが物を言う世の中になっております」

落ちくぼんだ西行の目が、光った。

都から離れているからこそ、見える物がある。世から遠く離れているからこそ、目まぐるしく動きぶつかり合う世の中の流れを、遙(はる)か虚空(こくう)から見下ろすように隅々(すみずみ)まで見渡し、その始まりから果てまでを見通すことができる。