東京へ来てもう五日が経っていた。何の手がかりも得られていなかった。斉藤由貴子宛ての荷物、それだけでは何も分からなかった。無論彼女は何も知らなかったし、運送会社も同じだった。骸骨が東京へ来たことは確かだが、その後どこへ消えたのか。初めは彼女の自宅周辺を探ったが、すぐに無駄だと気がついた。

彼女はダシに使われたに過ぎないのだ。それで骸骨の行きそうな所を次々と当たってみることにした。まさか観光に来たとは思わなかったが、地方から出てきた者が行きそうな所へはみな顔を出してみた。

皇居に始まって国会議事堂や不忍池、後楽園まで行ってみた。秋葉原や渋谷、池袋までも回った。だがとても身体一つでは足りない。そして五日間方々をうろついた挙げ句、新宿の外れのこの店に入ったのである。

彼は疲れて不機嫌になっていた。手ぶらで帰るのは癪だった。だが休暇の残りはあと二日しかないのだ。

「近頃何か面白いことでもあったかい?」

まるで取ってつけたように訊いた。黙ってばかりいるのも何だから、それであえて口にしたといった調子だった。

「さあ、とんとないですわねえ」

それで話は途切れてしまった。彼はまたぐいとグラスを呷った。サックスの音が止み、ピアノ曲に変わった。すると急に辺りの会話がざわざわと耳につき始めた。

「でね、そのガイコツったらぁ、ぴょこぴょこ踊ってるの。おかしいの何のって、みんな大喜びだったわ。アハハ、そうそう」

ケイコはさも可笑しそうに話していた。伊藤医師の眉がピクリと震えた。

「えぇ? 本物の訳ないじゃん。誰かのイタズラよう、でね、ぴょこんとお辞儀して、アハハハ」

彼の目が怪しく輝き始めた。

「ありゃ、何の話だい?」

ママは彼の顔を見ると、「またか」と言いたげな顔つきになった。そしてやや事務的とも思われる口調で、一月程前のひょっとこ踊りの話をしたのである。

 

【前回の記事を読む】眠らない、疲れない、腹も減らない、そして喉も渇かない。これが生きているということなのだろうか。

次回更新は11月1日(金)、11時の予定です。

 

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