母さんが小声でいうと、父さんはうなずいた。
「まるで聖者さまの絵のようだ。あの子には、なにかふしぎな力があるのかもしれない」
動物たちはしばらくそばにいたが、ネムがうたいおわると、それぞれもとの場所にもどりはじめた。
スズメたちが、いつものようにジドをからかって、わざと低く飛ぶと、ジドもスズメたちをおいかけて、空を飛んだ。
父さんと母さんは、ふしぎな世界をみるように、息をのんでみていたが、ネムの楽しそうな笑い声をきくと、われにかえって、そっと家にかえっていった。
そのとき、とつぜんウサギたちがにげだした。旦那がやってきたのだ。旦那は、ジドがスズメをおいかけて、飛んでいるところをみかけた。
―なるほど。ドーブルの話はうそではなかった。あの犬はたいした金になる―
旦那は、長着の裾をひるがえして屋敷にかえると、すぐに父さんと母さんをよんだ。
「あの犬をゆずってくれ。代金はたっぷりはずむ。そうすれば、あの家には、今までどおり住んでいてもかまわないし、借金も帳消しにしよう。息子だって学校にいかせて、なにか仕事を仕込んでやろう。ただし、ゆずらなければ、借金はそのまま、家はでていってもらうことになるが、いいな」
父さんと母さんはいそいで家にかえると、さっそくネムに、ジドを旦那にわたすようにといった。しかし、ネムは首をよこにふった。
【前回の記事を読む】"空飛ぶ犬"は村じゅうの噂に 屋敷の旦那に「飛んで見せろ」といわれるも......