第一章 決意

「頼む、考え直してくれ。そんなの土台無茶な話だ」

そう言うのが精一杯だった。青年は自分の肩を押さえるリリスの両手を払うと、その手を取ってにっこり笑った。

「俺には何だって無理さ。無理を覚悟で、無理を通して生きてきたのが今の俺さ。お前だってさっきそう言ったぜ、無理をしないと俺は生きられないって」

また彼は微笑んだ。リリスはこの微笑みが好きだ。

花がほころぶ、とはこういうことを言うのかと思うほど彼の微笑みは美しい。幼い頃から何度も接してきたこの微笑みに、リリスはいつも逆らえない。

これまでは、つい許容し、降参してきた。

が、今日ばかりはそうさせてはならない。断じて許してはならない……そう思いながらもリリスは彼のその微笑みの奥にひそむ切ないような決意も十分見て取れるのだった。

「ファラーに相談しろ。せめてファラーの意見だけは聞いてくれ」

リリスは応じるはずもない相手に、そう言ってみるしかなかったが、案の定、彼はゆっくり首を横に振るだけだった。

真っ白な睫毛を閉じて沈痛な面持ちで萎れているリリスの方が、よほど病人のように見えた。その横で寝台から下りて手早く身繕いを整えた青年は、慰めるように言葉をかけた。

「心配するな、お前の薬はよく効くぜ。昨日ぶっ倒れた俺が今日はほら、この通り元気回復さ。俺は何とか安全にここの扉を開きに行ってくる。きっとそうして戻るから待っていてくれ」