第2章 
「地震予知」の絶望 ―前編― 予知できなかった! 兵庫県南部地震!

6.唯一の公式予測情報「地震動予測地図」とは?

一方で地震調査研究推進本部の地震調査委員会では、活断層の長期評価結果等を生かして、当初からの目標としていた「地震動予測地図」を作成、2005年からほぼ毎年公表している。

2023年全国地震動予測地図(提供:防災科学技術研究所)

この「地震動予測地図」こそ、現在、地震の予測情報として政府が公式に発表している唯一のものである。

これは日本列島を1km2四方に区切り、それを「今後30年以内に震度6弱以上(あるいは震度5弱以上)の揺れに見舞われる確率」別に5段階で色分けしたものである。(これは、活断層やプレート境界では、ほぼ一定の活動間隔で地震が繰り返すといういわゆる「固有地震」の考え方を基本としている。)

しかし、「今後30年以内の地震発生確率」と言っても一般市民にはその確率の意味を理解するのが難しい上に、30年以内の発生確率は一般的には低いので、安心材料として伝わってしまう等と批判された。

しかも、サービス開始後の2007年7月の新潟県中越沖地震、2008年6月の岩手・宮城内陸地震、2011年の東北地方太平洋沖地震ではいずれも震度6弱以上の確率が低いエリアで地震が発生し、信頼性が問われた。

元々プレート境界地震で100~数百年間隔、活断層地震は数千年~数万年間隔で発生すると言われるものを、今後30 年以内の発生確率で「注意喚起」しようとすることに無理があるように思われる。

2016年4月の熊本地震でも、地震動予測地図では被災エリアの2014年から30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は0.1%(平均約1万年に1回発生)~3%(約1000年に1回発生)、6%(約500年に1回発生)程度となっていた。

地震調査委員会はプレート境界での地震の発生確率も公表した。2000年11月、宮城県沖地震について今後30年以内の地震発生確率を90%以上とし、陸側の震源域だけが動く場合M7.5、 海溝寄りが連動でM8前後と推定した。

このことが、後の東日本大震災発生の際、気象庁の当初の地震・津波の規模予測の判断に影響した可能性が指摘されることとなった。