1
お父さんの手紙
僕らはお互いに黙ったまま、しばらくの間、ウサギがもぐもぐとキュウリを食べているのを見つめていた。少し冷たい秋風が吹いて、紅葉の終わった白樺の木が、かさかさと乾いた音を立てた。
キュウリがなくなったことに気付いた僕は、ウサギ小屋の側に生えていた草を抜いて、金網越しにいるウサギたちにやりながらだいちゃんに話しかけた。
「キュウリよりも美味しくないかもしれないけど、この草もウサギの好物なんだよ」
夢中で草を食べるウサギの様子を見て、だいちゃんは、すげぇ、と言って少し笑った。
「妹の幼稚園でもウサギ、飼ってるんだ。たまに行くと抱かせてもらえるんだけど、けっこう力が強くて、爪が痛いんだよ」
「ふぅん……」
また会話の途切れた僕らの沈黙に気を遣うように、まわりの白樺の木々が、風と一緒に騒々しく合唱を始めた。
「この前、妹のこと、バカって言って、ごめん」
ウサギを見つめたまま、だいちゃんは、この間の喧嘩のことを謝ってくれた。
「ぼくも、暴力をふるって、ごめん」 僕もそう言って謝ったら、なぜかおかしくもないのに僕らは顔を見合わせて、照れたように笑い合った。
「だいちゃん、今日、一緒に遊ぼう」
朝からずっと言い出せなかった一言が、自然に僕の口から出てきた。
「うん! 何して遊ぶ?」
「キャッチボール! ぼくの家の近くに、空き地があるんだよ」
放課後、三組の皆が不思議そうな顔で見守る中、僕とだいちゃんは仲良く一緒に下校した。グローブとボールを取りに行くために僕の家に向かいながら、野球はどこのチームが好きか、とか、どの選手が好きか、なんてことを話しているうちにあっという間に家に着いていた。
「ただいまぁー! 友達と外に遊びに行ってくるねぇ」
僕がランドセルを置いて家を出ようとすると、ちょっと待って、とお母さんに呼び止められた。
「お友達にうちに上がってもらったら? おやつ作ってあげるから、食べてから行ってもいいでしょう」
わかったと返事をして、僕はだいちゃんに家に上がるように声をかけた。だいちゃんは最初もじもじしていて、なかなか家に入ってこようとしなかった。
僕が困っていると、お母さんが玄関まで来て声をかけてくれて、そうしたらだいちゃんは、素直に靴を脱いで僕の家に上がってくれた。