「こんにちは」

お絵かきをしていた妹の凛が顔を上げて挨拶をすると、だいちゃんはぺこっと頭を下げて、もぞもぞと口の中で挨拶を返した。

さっきまであんなに元気よく話をしていたのに、急におとなしくなってしまっただいちゃんが僕には不思議だった。だけど僕の部屋に入ると、だいちゃんはさっきのようによく喋るだいちゃんに戻った。

「二人ともー、おやつ出来たからこっちにおいで」

僕らが居間に移動すると、出来たわよぉと言って機嫌よくお母さんがホットケーキを運んできた。湯気の立つきつね色のパン生地には、いつものようにシロップとバターがのっている。

だいちゃんは目を大きくして、自分の前に出されたそれを見つめていた。

「おばさん、これ、何?」

「ホットケーキよ。だいちゃん食べたことない? うちでは、まことも凛も、大好きなのよ」

「だいちゃん、冷めちゃうよ。食べようよ」

まごまごしているだいちゃんに僕も声をかけた。だいちゃんは、ぎこちない手つきでフォークを持つと、一口食べて、またお皿の上にフォークを戻してしまった。

「どうしたの? 美味しくなかった?」

心配そうな顔をして聞くお母さんに、だいちゃんは、大きく首を横に振った。うつむいたまましばらく黙っていただいちゃんは、小さな声で答えた。

「ううん、美味しいです、すごく。こんなに美味しいおやつ食べたの、ぼく、初めてです」

「そうなの、よかった。もしかしたらお口に合わなかったんじゃないかと思って、おばさん、心配しちゃった。だいちゃん、今日はまことと遊んでくれて、ありがとう。またいつでもうちに遊びに来てね。こんなに褒められておばさん、とっても嬉しいから、いつでもまた作ってあげる」

お母さんがそう言うと、だいちゃんの目から、大きな涙がぽろっとこぼれ落ちた。唇をぶるぶるふるわせて、そうして、うわーっ、と大きな声で、凛よりも大きな声でだいちゃんは泣き出した。

「おかあさん、おかあさん」

だいちゃんの泣き声は、僕の家中に響き渡り、しばらくやむことはなかった。

友情の芽生え

お父さんへ

お父さん、お元気ですか。

ぼくは、元気です。それからお父さんに、ほうこくしたいことがたくさんあります。

お父さんは、やっぱりすごいと思います。お父さんが、てがみにかいていたとおり、だいちゃんにあそぼうといったら、だいちゃんは、ぼくとあそんでくれました。

その前に、ちゃんとこの前のけんかのことをあやまりました。だいちゃんが先にあやまってくれました。それから、いっしょにキャッチボールをしてあそぼうとやくそくしました。 でも、その日は行けませんでした。

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